JFEスチール株式会社JFEスチール株式会社 様

取材日:2017年04月

Salesforce
導入事例

業種
鉄鋼
キーワード
  • PaaS
JFEスチール株式会社

グローバルレベルでの競争力を強化するために、お客様やビジネスパートナー様との情報共有を強化するシステムを構築
「SoE(System of Engagement)」を通じて「価値を創造」し、「攻めのIT経営」を推進

JFEスチール株式会社(以下、JFEスチール)は、メールや電話でやり取りしていた社内外での情報交換を、Salesforceをベースとしたシステム上で行っています。

同社で構築された既存の基幹系システム「J-Smile」や計画系システム「J-Flessa」と連携させることで、培ってきたノウハウや優位性を確保しつつ、全社的な情報活用や取引先との情報共有の深化・スピードアップを通じて、会社としての競争力を強化しています。

Salesforceを導入した狙いや活用効果について、同社 IT改革推進部長 新田哲氏(写真中央)、同部 副部長 営業・SCMグループリーダー 和田徹也氏(写真左)、同部 副部長 浅井俊彦氏(写真右)、に詳しく伺いました。

JFEスチール株式会社について

JFEスチールは、『常に世界最高の技術をもって社会に貢献します』という企業理念のもと、独自性のある技術開発に取り組み、高品質な“鉄”を提供する製造メーカーです。世界中のお客様にタイムリーに鉄を提供するため、東日本製鉄所(京浜・千葉)と西日本製鉄所(福山、倉敷)の大型臨海製鉄所を中心に効率的な生産体制を構築し、グローバルな顧客対応力の強化を図っています。

JFEスチール製鉄所

導入背景とねらい

- Salesforce上で開発されたシステムを次々とリリースされていますが、それらのシステムを開発した背景や狙いなどを教えて下さい

一言でいうと、「SoR(System of Record:記録型システム)」による「守りのIT」から「SoE(System of Engagement:価値創造型システム)」を通じて、JFEスチールとしてビジネスパートナー様を含めたトータルの競争力を向上させる「攻めのIT」を目指しています。

- 社内だけでなくビジネスパートナー様も含めたシステム、ということですね。
競争力を向上させるために、ビジネスパートナー様も対象にされている背景などを教えていただけますでしょうか

そのご質問にお答えするために、まず、鉄鋼業界や当社について説明させて下さい。
まず、鉄鋼業界の特徴は、以下の5点と考えています。

1. 製品によって製造工程が異なるため、製造工程が多数ある

2. 高炉が非常に高温のため、途中で止められない
 (連続操業する必要がある)

3. 製品の仕様や品質に関わる項目が膨大である

4. 販社、物流会社、最終加工会社、倉庫業者など、関係会社が多い

5. お客様の海外進出に伴って、グローバルレベルでの競争が激しくなっている

寺田氏

「JFEスチールとしてビジネスパートナーを含めたトータルの競争力を向上させる「攻めのIT」を目指しています。」
新田氏

- それぞれの特徴について、教えて下さい

1点目は、鋼材の製造工程は、大きく分けると「製銑(鉄鉱石から鉄以外の不純物を取り除く)⇒製鋼(炭素を取り除き強度を高めた鋼にする)⇒圧延(鋼板、棒鋼、線材、H形鋼などの鋼材に加工する)」となっていますが、最終製品の種類に応じて製造工程が異なるため、工程の数が多く、複雑になります。また、最初の工程である「製銑」で使用する「高炉」は温度が非常に高温のため、一旦温度が下がってしまうと再度温度を高めるために時間や燃料を余計に使用することになります。このため、2点目に「連続操業」とあるように、基本的には365日24時間休みなく操業しています。

こうして製造された鋼材は、最終製品のスペックや性能を左右します。このため、自動車メーカーや家電メーカーをはじめとする我々のお客様は、鋼材に対して多くの要求水準を設定されています。この要求水準は、形・大きさ・色といった目に見えるものだけでなく、強度や成分などの目に見えない範囲にも及びます。これらの要求水準に応えるためにも、3点目にあるように膨大な製品仕様や品質に関わる項目の管理が必要になります。

一方でお客様への販売は、商社を介した販売が一般的ですし、納入に際しても、大きさや重量が巨大な製品を運ぶ特殊車両を手配できる物流会社や船舶を手配する船会社、その他にもコイルを在庫しておいて、お客様からの要望に応じて加工や出荷を行うコイルセンター、と4点目にあるように多くの会社が関わっています。

5点目については、1990年代の半ば以降、海外の鉄鋼メーカーも生産を本格化させ、技術レベルも上がってきています。グローバルレベルでの競争となったことで鋼材や原料の価格変動が激しくなり、収益の確保が厳しい状況になっています。

- 鉄鋼業の特性やグローバル化に伴う競争の激化により、収益を確保するには、膨大な量の情報を多くの関係者とタイムリーかつ密にやり取りしないといけない、ということですね。
その他に、貴社固有の背景もあるのでしょうか?

当社の営業体制は、基本的に品種ごとに分かれています。営業担当者がある程度の専門性をもってお客様と会話できるようにすることで、商談を円滑に進めることができるメリットがあるのですが、一方で品種の垣根を越えた情報共有がなされにくい、というデメリットがあります。

例えば、A部門がX社と既に関係を構築できている情報をB部門が知らないため、B部門はイチから人脈を構築しようとして、無駄なコストや時間を掛けてしまうなどのケースが考えられます。

また、お客様やビジネスパートナー様とのやり取りはメールでのやり取りが多いのですが、個人のPCにしか保存されていないため、細かい経緯が共有されていなかったり、過去の事例をうまく共有できていない、という状況が見受けられました。個人個人が頑張って経験を積んだとしても、会社という組織全体のレベルアップにはつながりづらい、という環境であったといえるかもしれません。

- 取り巻く環境が厳しさを増す一方、個人個人のレベルアップを会社としての競争力向上に結び付ける仕組みがなかった、ということですね。
Salesforceを使ったシステムに、そのあたりの改善も狙いとしてあるのでしょうか?

そうです。一言でいうのであれば、JFEスチールという会社のレベルアップを図るために、自社内だけでなく、お客様やビジネスパートナー様といった社外との情報共有を深化させ、情報活用を強化する基盤を構築しようと考えたということです。

情報活用基盤強化の取り組み

- 全体的な狙いは理解したのですが、もう少し具体的な取り組みをお聞かせいただけますか?

それでは、もう少し具体的な内容をお話しします。
まず、「営業部門の垣根を越えた情報共有(販売情報共有)」です。 取引先や案件を軸にしてどんな活動を行っているかを一元的に管理しています。品種が異なる別部門の活動も参照できるので、取引先との関係作りを「個人」でなく「会社」として行えるようになりました。また、ホームページのようなキーワードによる検索性にも優れているので、過去の事例や提案資料なども活用が進んでいると感じています。

販売情報共有システム

続いて、「営業部門、開発部門、製造部門の情報共有(引合検討)」です。鉄鋼では、取引先から「この仕様の鋼材を、この納期で、この価格で生産できるか」という問合せを受けることがあります。我々の業界では「引合検討」と呼んでいますが、従来は社内のやり取りをメールで行っていました。このため、依頼した営業は「検討がどこまで進んでいるか見えず、確認に手間が掛かる」、依頼を受けた開発は「同じような問合せを何通も受けたり、特定の担当者に負荷が集中したり、検討が漏れている」といった課題がありました。これに対して、クラウド基盤上で社員全員が情報を共有して作業をすることによって、検討状況が可視化されました。これにより、「確認の負荷軽減」や「検討漏れが防止」され、更に「特定担当者への負荷集中の防止」や「違うルートからの同一検討依頼を防止」も実現しました。

- 社内での知見や状況を共有化することで、会社としての競争力を向上させているのですね

和田氏

「攻めのIT経営銘柄」に鉄鋼業種として2015年度・2016年度・2017年度と3年連続で選出されました」
和田氏

社内だけでなく、取引先との情報交換の基盤としても活用しています。まずは、「販社と営業部門の情報共有」です。先程お話しした「製品によって製造工程が異なる」といった特徴があり、「高炉の温度の関係から連続操業が必要」ということから、製造計画が重要になります。取引先様が必要とされる製品を必要とされるタイミングで供給することはもちろん大切ですが、収益が厳しい中で、売れない製品を作ることも避けなければなりません。精度の高い製造計画を立案するためには精度の高い販売計画が必要であり、いかにして精度の高い計画情報を取引先からタイムリーに取得できるかが重要になります。

これまでは、当社の営業部門が取引先から販売計画を定期的にメールや電話で確認し、その数値を集計していました。しかしながら、情報提供の依頼や集計の負荷が高いだけでなく、取引先によって情報の粒度が異なっているため、計画そのものの精度にも影響がありました。この販売計画を、Salesforce基盤上でやり取りすることで、依頼や集計の負荷軽減とスピードアップ、また情報粒度を揃えることによって計画精度の向上にも役立てています。

また、2016年1月にプレスリリースもいたしましたが、「取引先と営業部門、工程部門、物流部門の情報連携(輸出配船)」でも活用しています。鋼材を海外に輸出する際、船舶へ積み込みますが、天候や製造状況によって期日よりも時間が掛かってしまったり、逆に前倒しできたりします。この際に、お客様、商社、船会社などと滞船料や早出料という費用のやり取りが発生します。これまでは、紙でやり取りしていたため、時間が掛かる、検討の進捗状況が分かりづらい、という課題がありましたが、Salesforce基盤上でやり取りすることで、スマートフォンなどからでも参照・承認が行えるようになり、時間の短縮と費用処理の漏れも防止できるようになりました。

輸出配船支援システム

これらの取り組み等が評価され、当社の親会社であるJFEホールディングス株式会社は、経済産業省と東京証券取引所が共同で創設した「攻めのIT経営銘柄」に鉄鋼業種として2015年度・2016年度・2017年度と3年連続で選出されました。

Salesforceを選定した理由

- 社内だけでなく社外との情報連携を行っているのは大きいですね。
そのあたりに基盤として、Salesforceを活用した理由があるのでしょうか?

それでは、当社がSalesforceを選定した理由についてご説明いたします。
まず、取引先を軸に情報を一元管理できるCRM・SFAという点です。当社では、SFAの仕組みを構築していましたが、案件を軸とした管理であったため、ある取引先に対して他部門がどんな活動を行っているか、どんな人脈があるか、という取引先を軸とした情報の共有や活用は困難でした。また、登録された情報の検索性も制限があり、特に他の担当者が作成した資料をうまく活用できていませんでした。これに対してSalesforceは、取引先を軸とした管理も可能であり、また、添付した資料を含めて検索できるため、こういった課題を解決できると考えました。

- CRM・SFAの中でも特にSalesforceを選定されたポイントはあったのでしょうか?

大きく上げると2点ありますが、まずは、社内だけでなく社外との情報連携です。今までお伝えした通り、これからの競争に勝ち残るためには、ビジネスパートナー様との情報連携がポイントと考えていました。ただし、社外ユーザは端末環境(OS、ブラウザなど)が多種多様であり、機能の追加や修正を行った際の検証負荷が高く、リリースがタイムリーに行えない可能性があります。また、ビジネスパートナー様にご迷惑をお掛けできないので、セキュリティ面を含めた維持や運用の負荷が高くなります。これに対して、Salesforceは第三者機関の資格を取得されていたり、金融機関などセキュリティに厳しい企業でも採用されている実績もあり、また、データセンターを実際に見学したり、セキュリティ対策を説明いただき、採用を決定しました。

出荷・納入システム

2点目は、開発生産性です。Salesforceは、基本的な項目設定や画面生成であればマウス操作で行えますし、凝った画面生成や他システムとの連携も作り込みを行うことができます。今回のシステムのターゲットとなる取引先との接点は、管理項目の追加や変更も多く、それらの要望にいかにしてタイムリーに応えるかが鍵になります。このため、こういった追加・変更の要望に対して、柔軟かつ迅速に対応できる基盤が必要と考えました。

導入効果

- それでは、実際にSalesforceを使って良かった点を教えて下さい

1点目は、CRMとしての完成度の高さです。取引先や物件を軸にして、活動など関係する情報を一元的に管理することで、「どこを見れば良いのか」という悩みから解放されました。また、他部門での活動状況が「見える化」され、また、登録されている情報からキーワードで検索して活用もできるようになり、「個々人の競争力」から「会社としての競争力」にシフトし、「会社としての競争力」も向上していると感じています。

2点目は、社外のビジネスパートナー様との情報共有のしやすさです。2016年8月にプレスリリースしましたが、スマートフォンでQRコードを読み込むと、その鋼材の品質情報が画面に表示され、紙のミルシート(鋼材の品質保証書)が偽造されていないかを確認できる「ミルシート偽造判定システム」を開発しました。これにより、お客様も問合せを行いやすくなりましたが、こうした取り組みを積み重ねていくことが、会社や製品の信頼度向上につながっていくと考えています。

ミルシート偽造判定支援システム

3点目は、開発生産性の高さによる、システム開発の効率化です。単なる開発期間の短縮ということではなく、Salesforceの特性を活かして、早い段階から実画面を参照することで、利用ユーザと開発メンバーのギャップ(認識のズレ)を抑え、手戻りを防げることを意味しています。先程ご紹介した「販売情報共有システム」は、従来に比べてかなり短期間で構築できました。また、モバイル端末へ対応しやすいため、その特性を活かしたシステム化も行っています。2017年3月には、外出先からモバイル端末で注文の進捗状況や在庫照会を行える機能を一部のユーザに開放しています。リリースした後も、実際に利用ユーザが使いながら出てきた改修要望に対応することで、ユーザにとっても「使えないシステム」となることを防いでいます。

- その他にも定着化に向けて工夫された点がございましたら教えて下さい

考え方としては、「情報を登録する担当者」「登録された情報を参照する経営者・上長」それぞれ向けの施策を行いました。「担当者の入力負荷軽減」と「情報の陳腐化防止」を目的として、名刺管理のサービスと連携している、などが一例として挙げられます。これらの取り組みはノウハウと呼べると思いますので、JFEシステムズに構築を依頼してお聞き下さい。(笑)

浅井氏

「利用ユーザが使いながら出てきた改修要望に対応することで、ユーザにとっても「使えないシステム」となることを防いでいます」
浅井氏

今後の展望

- 定着化も進められており、今後も更にSalesforceの活用を考えられていると思いますが、今後のご予定をお聞かせ下さい

基本的な考え方としては、最初にお話しした通り、従来の「SoR」のように「コスト削減」を目的とする「守りのIT」から、「SoE」を通じて社内外に新たな価値を創出し、会社としての競争力を強化する「攻めのIT」を強化していきたいと考えています。開発したシステムについては、随時プレスリリースも行いますので、当社のHPなどを日々チェックしていただきたいです。

- 最後に、JFEシステムズに望むことを教えて下さい

2011年からSalesforceを基盤としたシステム開発をJFEシステムズへ依頼しています。当初は、これまでのスクラッチ型のシステム開発と異なる部分が多く、苦労していたようですが、当社をはじめとするJFEグループでのシステム構築を通じて、知見も蓄積されてきているかと思います。そのようにして蓄えられた知見を当社にフィードバックしていただき、JFEスチールだけでなく、JFEグループ全体としての競争力強化に向けた仕組みの提案を行って欲しいと思います。

- お忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。これからもよろしくお願い致します。

※ 実績紹介に記載された情報は取材時点のものであり、お客様の社名などが閲覧される時点で変更されている可能性がございますがご了承ください。

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