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J-CCOREs 特別対談TOP Section3:求められる「日々原価管理」

 今回の対談では、前回取り上げた財務会計と管理会計別の目的に合わせた原価計算を採用することで企業の体力強化に役立てるというテーマを引き継いで、時代の変化のスピードアップに合わすことのできる「日々損益計算・日々原価計算」を実現し、企業間の国際競争にも打ち勝つためには何をなすべきかについてお話を伺います。

吉川教授: 学校で教える原価管理の一つの方法は、標準原価計算に基づく原価管理で、標準原価に基づくと製品一個を幾らで生産するかという観点から、製品1個の生産に必要な直接材料費、その生産に直接携わる従業員の人件費である直接労務費、さらに間接業務で発生する製造間接費の原価差異分析を活用しています。
この原価差異分析は、製品1個の標準原価に対し、直接材料費では価格差異と数量差異を求めます。直接労務費では、賃率差異と作業時間差異を求めます。そして製造間接費では、予算差異、変動費能率差異、固定費能率差異および不動能力差異の4に分けて原価差異を分析しております。この差異分析は、原価管理にとって重要で、標準原価に対し実際原価はこんなに余分にかかったのですよ、換言すると、原価差異を詳細に分析することで無駄な原価(さらに無駄な作業や業務)をあぶり出し、作業効率や業務効率の改善につなげることができます。この原価差異分析は、企業経営を行う以上、当然必要不可欠なもので、できれば日々管理することが大切です。
岸本: その通りだと思います。かつて差異分析は月次決算が終わった後に歩留差異、変動費差異、固定費差異に分けてやっていましたが、最近では「日々損益、日々採算」ということで、まず標準原価で採算を求めます。これには原価差額が含まれていますので、差異分析も日々行う方がいい。価格差異は移動平均では月次でないと無理ですが、主要な差異である数量差異の部分は、原材料の歩留まり差、配合差、変動費の原単位差というところを日々に行います。
つまり、日々採算と原価差額の主要なものを把握するということですね。これを日々行うことに大きな意味があるんです。たとえば月初10日くらいで決算が終わったとして、それから差異分析を行ってもデータが古くなってしまい、意思決定も遅れます。これが日々行っている場合は、10日になるとその月の10日までの速報が手に入るわけです。また、日々の累計が月次決算にもつながっているわけです。
吉川教授: 採算の把握を日々行うと言うことは、現場にもよい影響を与えると思います。月に1回しか行わない場合は、月次決算が終わった時には、既に30日もたっているわけです。1ヶ月もたってから「こんなに余計な費用や原価がかかっている、これじゃダメだ」と言われても、「ごめんごめん、次からがんばるよ」で済んでしまいがちです。これが毎日採算計算を行っていると、従業員も「今日はまずかった、明日は赤を出さないようにしよう」と、常に緊張感を持って作業や業務をしてくれます。つまり、いい意味での行動の指針になるのですね。
岸本: また、スピーディな経営を行う上でも必要でしょうね。現場サイドからすれば、1ヶ月前のことに文句をつけられても困ってしまいます。
吉川教授:
第1回でご紹介した某社の社長さんの言葉を繰り返すなら、「3日遅れの古新聞を誰が読みますか」ですね。社長さんの会社では、工場の生産ラインと事務所と営業部門の3カ所で毎日損益計算書を作成し、利益管理と原価管理を行っております。固定費は、年間の固定費を操業日数で割って、一日あたりの固定費を計算してあります。変動費は、例えば、工場の生産ラインが倉庫から材料や部品をラインに移動したとき、これが変動費となります。売上は、物流部門が2時間おきにラインの完成品をピックアップしたとき、あるいは次工程に半製品を移動したとき、これが生産ラインの売り上げになります。生産ラインの作業員が午後5時頃交代するとき、一日の売上と原価を比較し、数分で損益計算書を作成しています。
この会社は、要するに、企業は儲かってなんぼで、そのためにはコスト意識が大切ですよ、と言うことを従業員に意識させているのです。こうした考え方が浸透するにつれ、これまで新しい機械が世の中に出ると、新しい機械に買い換えていた現場の従業員が、新しい機械を買うと固定費の増加になるので、新しい機械を欲しがらなくなり、自分たちで既存の機械を修繕や改良して使うようになりました。
岸本: それはすごい。日々原価管理の上を行く日々決算ですね。
吉川教授: こうした日々の損益計算書の作成は、現場だけでなく、事務所と営業部門でも作成し、コスト意識を全社的に共有しています。
岸本: 社内取引で事業部制など、そういうやり方は昔からありますが、毎日見えるようにやっているところが素晴らしいと思います。
吉川教授: この日々の損益計算書は、毎日5分か10分もあればできることです。お金の動きが細かく見えますから、ある意味では、これもキャッシュフロー経営といえますね。
岸本: 私どもといたしましては、こういった会社の日々採算管理、差異分析をシステム化していただければ、さらに社内での情報共有が実現できますとご提案したいですね。現場ではたしかに見えているけれども、全社横断的に見る、あるいは過去の推移を見るためには別途入力しなければならないようではいけません。情報を共有することによって部分最適から全体最適へ、経営のベクトルに合った行動を引き出すことが、私どものシステムの狙いで、そのあたりの違いがあると思います。
吉川教授: システム化することで、さらに改善の余地があるということですね。
岸本: 現場の改善、効率化を進めるという意味で、大切なことは情報共有だと思います。おのおのが数字を出し、経理が合計して決算数字を出しました、では意味がありません。配賦基準なども同様ですが、計算の過程を目に見えるかたちにすることが重要なのです。そこで私どもは過程をわかりやすく見せるための仕組みをつくっているわけです。
吉川教授: 今の発言は重要ですね。先ほどの会社では、目で見る管理を前提に、生産ラインは売上を白いブロックを積み上げ、原価は赤いブロックを積み上げ、その差額を利益としています。したがった、そのブロックを他の生産ラインが見たとき「まずい、あっちはもう達成しているよ、俺たちもがんばらなくちゃ」と、ライン間で競争心が出ています。このように、言葉は悪いですが、情報をうまく活用し、いい意味での競争心を引き出すために、オープンにできる情報は一元化して共有する事が重要ですね。その結果、日々の原価管理や日々の損益計算にも好影響を与えると思います。
岸本: 今や日本企業も世界中に工場や営業所を持つ時代になりました。国内だけではなく、海外での原価や採算データを、いち早く入手することが重要になってきています。グローバルな意味での情報共有が必要になっていると思います。
吉川教授: 世界各地に工場がある企業の場合、月1回データを送ってもらっているようでは、的確な企業経営はできないと思います。それぞれの工場の情報を日々確認することができ、「○○の工場はまずいじゃないか、それでは別のアクションを採ろう」と、スピーディーな経営管理が必要ではないかと思います。
岸本: それが世界連結というテーマですね。原価計算においては、社内でのルールは統一できますから、日々原価計算を行うことは可能だと思います。
吉川教授: この場合、公表財務諸表の作成ではないので、必ずしも各国の財務諸表に即した計算方法である必要は無いと思います。あくまでも内部管理のためで、管理目標の実現のために統一した手法で計算すればよいのです。これからの時代は、日々原価計算も国際化に対応することが必要だと思いますね。
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プロフィール
吉川武男 教授
 1942(昭和17)年栃木県生まれ。横浜国立大学大学院教授、エジンバラ大学客員教授。専門分野は原価計算及び管理会計。主な著書は『Activity Costing for Engineers』(Research Studios Press)、『増益に直結する固定費用の管理』(中央経済社)、『バランス・スコアカード入門』(生産性出版)等。訳本として『バランス・スコアカード』(生産性出版)等がある。
岸本建彦
 神戸大学経営学部卒業後 川崎製鉄(現JFEスチール)原価課に勤務して以来、原価計算、原価管理システムに従事してきた。これまでの実績 製鉄会社だけでなく、製薬、プリンター製造、石油精製・販売でのリーディングカンパニー、電力、LSI製造、化学など多様な業種で管理会計システムを稼動させた。また、アメリカとブラジルでも、現地のSEを指導して、管理会計システムを稼動させた実績も持つ。
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