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J-CCOREs 特別対談TOP Section2:会計目的に合わせた原価計算を

 前回の「予算管理に結びつく未来志向の原価計算へ」では、予算管理に結びつく売価設定、原価計算部門の今日的なあり方を議論しました。そして今回は、「会計目的に合わせた原価計算を」と題し、外部報告会計である財務会計と内部報告目的の管理会計、2つの異なる会計が原価計算にどのような影響を与えるのか、また、企業経営の強化に結びつく、より実践的な原価計算についてお話を伺います。

吉川教授: 製品原価計算の財務諸表目的は、企業の業績を外部に報告するという観点から、当然、制度会計上の原価計算に基づいて計算しなければなりません。適当な数字を出していては、粉飾になりかねませんし、今後は法により内部統制のいっそうの強化が求められます。最低でもエビデンス(証憑)を明確にして、こういうシステムで、このように計算したので、この製品原価が出ました、と証明できるようにすべきです。また、そういった手順を財務諸表に脚注として明記した方がよいと思いますね。
岸本: それが企業の行うべき、最低限の説明責任ということですね。
吉川教授: アメリカなどでは企業の社会的責任が重視されていますから、原価計算の方法をきちんと説明できないと、株主をはじめとするさまざまな利害関係者から批判されます。原価計算がいい加減ですと、例え見かけが一時的に儲かっているような会社でも、屋台骨が揺らぐ恐れがあるんです。特にエンロン事件以降、企業の会計に対して世間の目は厳しくなっています。不正経理をしていませんよ、ということを証明するためにも、制度会計上のルールに基づき原価計算を確実に行う必要があります。
岸本: 財務会計をまっとうに行ってから、はじめてマネジメント段階に必要な管理会計の段階に進むべきなんですね。
ところで、先生が研究されてきたABC(Activity Based Costing=活動基準原価計算)マネジメントは、管理会計目的の原価計算、採算管理に非常に適した手法で、私どもの製品でも採用させていただいております。
吉川教授:
1980年代になって、米国企業では原価の中の間接費の比重が激増しました。従って、この間接費を適当に配賦すると、本当に儲かっている製品と儲かっていない製品がわからなくなって、意思決定にも悪影響を与えてしまいます。そこで登場したのが、間接費を各製品や各部門に適正配分するABCマネジメントです。
岸本: 我が国では、製品の売上高に応じて間接費を配賦するという、あまり合理的ではない手法が、未だに多くの企業で採用されています。
吉川教授: 売上高に比例して間接費を配賦すると、たとえば、ほんの少ししか売れておらず、しかも生産にかなりの手間がかかる製品があった場合、売上自体は多くないので、ほとんど間接費を負担しません。逆にたくさん売れており、工程を機械化して大量生産をしている商品は、手間がさしてかかっていないにもかかわらず、全体に占める売上高が大きいので、結果的に多くの間接費を負担することになります。
こうなると、この売れていない少数生産の製品は、実際は赤字なのに、採算性がよく見えてしまうことがあるんですね。一時期流行った多品種少量生産というのは、この見せかけの間接費に騙されたケースが多いのです。少量生産ゆえに儲かっているように見えますが、実際には経営にダメージを与えることになり、数年後には倒産する企業が出てきました。そこで、ABCマネジメントが誕生したんです。
岸本: 現場での事例で申し上げますと、以前は間接費はあまり重要視されませんでしたので、直接労務時間当たりの賃率に含めて配賦されることが圧倒的に多かったと思います。たとえば昔は自動車業界から原価管理に関してお呼びがかかるなどということはまずなかったんですが、最近は、間接費管理の観点からの引き合いが非常に増えています。
吉川教授: 一昔前は作業や業務を行っている従業員や社員の人数に応じて配賦する等、アバウトな方法を採用していた企業も多かったと聞きますが、さすがに、もうそのようなやり方ではまずいという判断があるのでしょう。世の中はどんどん変化していますから、原価計算の手法も変わらざるを得ない、ということですね
岸本: それから、最近では標準原価よりも実績原価を重視する流れが強くなってきていますね。従来は、実績原価というのは過去の原価であって、未来原価が標準原価だ。標準原価じゃないと遅れていますよといわれていましたが、最近になってまた状況が変わってきまして、標準原価ではなくやっぱり実績原価で管理したいという声をよく聞きます。
吉川教授: 何よりスピードが求められる時代になり、企業の今現在の実力を測るには、標準原価に基づく月1回の差異分析だけでなく、実績原価に基づくスピーディーなチェックが必要ということに気づいたのでしょうね。
岸本:
そのようです。損益で本当に知りたいのは、直近の会社の実力はどうかということですが、そのためには実績原価を見る必要があります。また、最近では製品のライフサイクルが短くなってきていますから、たとえ標準原価を設定しても、標準となる値がどんどん変わっていってしまうんですね。そして能率や歩留がよくなって安定する頃には、もうライフサイクルが終わっていたりする。こういった業態では、標準原価はあまり意味を持ちません。
吉川教授: コストの変動パターンにもおおよその傾向がありまして、実績原価がだいたいこういう形になってくると、そろそろ製品のライフサイクルは終わりだなということがあります。そういうことまで含め、実績原価を見る目はシビアになってきていますね。
岸本: やはり、原価をトレースするという意味では直近の実績原価、同時に業績を管理するという意味で実際の採算が重要です。つまり、在庫の数を見ながら実績採算を見ると、強力な管理ができるわけですね。これはちょっと教科書的ではないかもしれませんが、実践する上では非常に説得力のある管理方法かと思います。
吉川教授: 作業や業務の面でいうと、どの作業や業務にどれくらいかかったのかを明確に把握しなければ、いざ改善しようにも何をしたらよいのか、という情報が上がってきません。きちんと数値を出せば、「えっ、この作業や業務で、そんなにかかっていたの」という発見があります。そして、果たしてその作業や業務は本当に必要なのか、ということを検討できるのです。
学校では、これらの作業や業務をノン・バリュー・アッディド・アクティビティ(付加価値を生まない無駄な作業や業務)と言います。それがなくても製品ができる、単なる習慣でしかない作業や業務が意外と多いのです。極端な例ですが、ある時、私が英国の某工場で調査したところ、無駄な作業や業務が80数%という、驚くべき数値が出たことがあります。コスト・ダウンを実現するためにも、各作業や業務がバリュー・アッディド・アクティビティ(付加価値を生む有益な作業や業務)なのか、ノン・バリュー・アッディド・アクティビティなのか、という検証を進める必要がありますね。
岸本: 80%以上とはひどいですが、実際に検証してみないとわからないものなのでしょうね。
吉川教授: さらに、流動資産の在庫や固定資産の保有といった、資産管理の問題があります。必要以上に大きな在庫を抱えれば、それは死に金になっているということですし、不要な建物や機械を持っていると、使ってもいない固定資産から発生する減価償却費が製造原価を押し上げるという非合理なことが起こり得ます。
岸本: おっしゃる通りですね。役に立つ原価情報を提供するためには、原価低減のアクションにつながる情報を取り込み、原価に反映させることが必要です。また、戦略的な投資コストなど、製品原価の内訳を目的に合わせて切り分けて見せる工夫も重要だと思います。これらの情報に基づいて、余計なものは排除していく活動を引き出す。それが、企業経営を強化していく上での第一歩となるのではないでしょうか。
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プロフィール
吉川武男 教授
 1942(昭和17)年栃木県生まれ。横浜国立大学大学院教授、エジンバラ大学客員教授。専門分野は原価計算及び管理会計。主な著書は『Activity Costing for Engineers』(Research Studios Press)、『増益に直結する固定費用の管理』(中央経済社)、『バランス・スコアカード入門』(生産性出版)等。訳本として『バランス・スコアカード』(生産性出版)等がある。
岸本建彦
 神戸大学経営学部卒業後 川崎製鉄(現JFEスチール)原価課に勤務して以来、原価計算、原価管理システムに従事してきた。これまでの実績 製鉄会社だけでなく、製薬、プリンター製造、石油精製・販売でのリーディングカンパニー、電力、LSI製造、化学など多様な業種で管理会計システムを稼動させた。また、アメリカとブラジルでも、現地のSEを指導して、管理会計システムを稼動させた実績も持つ。
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